アートに関する雑談など…

好きな画家 その3〜ノーマン・ロックウェル

 今日、ロックウェルの画集を眺めていて、あらためて「いいなあ」と思いました。
 ロックウェルってファインアートの画家なのかイラストレーターなのか曖昧なところがありますが、まあ作品が良ければどちらでもいいことですね。

 で、どこがいいかっていうと、卓越したデッサン力とハイセンスな色彩感覚を基本にしたリアルな絵のタッチ、表情・しぐさの絶妙な捉え方、空気感、それにユーモアを忘れない心憎いばかりのシーンの切り取り方でしょうか。

 そう「切り取り方」っていう方がしっくりきます。
 本来は絵なので、構成力っていう方がいいのかもしれませんが、ロックウェルの場合、あたかも卓越した写真家のようにシーンを切り取っていますね。(実際に自分が描きたいシーンを想定して写真を撮り、それを元に絵を描くこともよくあったようです)

 絵って、必ずしも具体的な何かを表現しなければならないっていう訳じゃないですが、ロックウェルは大衆雑誌の表紙イラストをたくさん手がけたということもあり、見事なまでに具象画家であり、その絵にはストーリーがこめられています。

 たいていはノスタルジックなアメリカの市民たちの微笑ましい暮らしのワンシーンが描かれており、そこには強烈なメッセージはありませんが、画家として名声 を得た後に、誰に依頼された訳でもなく自らの使命感から描いた、人権問題を扱ったメッセージ色の強い絵もあります。(それにすら絵としての芸術性が漂うところが ロックウェルの偉大なところ)

 ともあれ、レンブラントなどもそうですけど、登場人物のドラマチックな動きを瞬間的に捉えたストーリー性の高い絵って、芸術云々を抜きにしても何か心惹かれますよね。
 絵画性といより文学性の問題かな?

 ちなみに数あるロックウェルの絵の中で私が最も好きな絵は「シャッフルトンの理髪店」。
 絵画技法的観点で見ると、この光の扱いと空気感に震えが来るほど感動します。

 ストーリー画としては、奥の部屋で繰り広げられている年老いた男たちの慎ましい演奏会の様子がとてもいいです。
 ロックウェルはそれを半分だけ切り取って見せます。心憎いですね。
 画面の大部分は閉店した薄暗い理髪店の様子です。
 何という大胆な画面構成でしょう。
 しかもよく見ると、薄暗い理髪店の中に黒猫が一匹。ちょこんと座って演奏会を見ています。
 年老いた男たちと行儀のいい黒猫。ささやかな演奏会とすべてを心得た観客。漂う詩情。

 私は以前はカメラマンとしてTV番組やCMを長年撮ってきましたが、その目で見て思います。
 ロックウェルの絵ってムービーの絵作りの匂いがします。
 人物をどう配置し、どう動かし、光はどこから当て、カメラはどこに据える…。

 ロックウェルの絵は、まさにそいういうカメラの目で捉えた世界です。
 表面ばかり派手な大作ばかりを作る今のハリウッドには無い、かつての職人監督たちがワンシーンにこだわって作り上げた古き良きムービーの世界です。

 通俗的かも知れませんが、でも、ホッとする画家。絵を見て良かったなあと安心する画家。それが私にとってのノーマン・ロックウェルです。

ノーマン・ロックウェル美術館(英語)

(2008年9月7日) Topに戻る

好きな画家 その2〜ディエゴ・ベラスケス

 まだ本物を目にしたことはないけれど、いつかは必ず見たいと思っている絵画はいくつもあり、その中でも筆頭に近い存在が、ディエゴ・ベラスケスの「ラス・メニーナス」。
言わずと知れた世界三大名画のひとつですね。

 ベラスケスは大好きな画家です。
 いかにもバロックというドラマチックな写実性も、ため息が出るほど見事ですが、やはり最大の魅力は、あの魔法のようなタッチでしょう。
 小さな画集ではよくわからなかったのですが、実物大で印刷した美術本で見た時に、はっきりとわかりました。
 目の前30cmばかりで見ると、それは具象画というより抽象画に近いものです。大きな画面に飛び散った絵の具のシミ。輪郭線もなく、素早い筆の動きが生のまま残されています。
 ところが本を壁際に置いて徐々に遠ざかっていくと、ある距離に達したとたん、単なる絵の具のシミが一瞬にしてリアルな質感を持ち、ひとつの像となり、この上ない具象画として胸に飛び込んで来ます。
 ハッとするほど魔術的で鮮やかな感動。

 それはニ百年後に現れる印象派の筆触分割をはるかに超えたものです。たとえば偏執的な計算をして色をキャンバスに配置していったスーラも、結局は表面的な色彩の世界で右往左往していたに過ぎませんが、ベラスケスの深さは、その卓越したタッチを、絵を描き上げるための単なる手段としか考えていなかったところにあります。

 言い換えれば、ベラスケスの独特なタッチは対象を深く描写し作品の芸術性を高めるために有効なものですが、それ以上に自己を主張することはないのです。
 その証拠に一瞬にして網膜上に結ばれた像からは、それが人物ならその背景に、その性格・趣向、さらには人生までもが浮かび上がってきますが、同時にタッチの異様さは画面からきれいさっぱり消え去っています。

 絵画とは、たとえば写真とは全く違うもの。
 絵の具や筆やキャンバスなどという物質と画家の卓越した技術と精神性が融合した創作芸術です。
 写真は写真家が目の前にある光の情報を切り取ったり味付けしたりしながら作品を創り上げるものですが、絵画は画家が視覚イメージをもとにゼロから創り上げるもの。
 現実を素材にして彫りこんでいく彫像と、幻想を素材に創り上げる塑像ぐらいの違いがあります。
 ベラスケスの作品を見ると、そんなことを思ってしまいます。
 だからベラスケスは「画家の中の画家」と呼ばれるのでしょう。

 光の扱いが得意な画家、フォルムを捉えるのが上手い画家、色彩感覚の優れた画家、構成力が群を抜いた画家、細密描写に長けた画家など、それぞれの分野を見れば名人芸を誇る画家は数多いですが、それらすべてを兼ね備えた上に高い精神性を感じさせ、なおかつ誰も真似できない独特のタッチを持つ画家といえば、まず第一にベラスケス。

 そのぶっ飛び方は尋常ではなく、まさに天才としか言いようがありません。(初期の作品は伝統的なタッチで描かれていますが、それでも作品の迫真性は飛びぬけています…)

  スペイン美術を特徴とする長崎県美術館は、プラド美術館と特別な提携関係にあり、日本ではここでしか買えないというプラド美術館のミュージアムグッズなども売っているのですが、その縁でぜひとも「ラス・メニーナス」の特別展示をやってくれないかな…と夢想したりしますが、サッカーのワールドカップで日本代表がスペイン代表に勝って優勝する方が簡単かも。

(2008年8月4日) Topに戻る

好きな画家 その1〜ジョン・シンガー・サージェント

 ここしばらく、絵は描いているのですが、全然、思ったような仕上がりにならず、反省しきりの毎日です。
 特に顔が上手く描けません。
 調子に乗ってチープなマンガみたいになってしまっています。
 過去は棚に上げつつ、「ああ下手くそになってしまった…」と落ち込んでしまいます。

 たぶん少し絵が上手くなったような錯覚を持って、いい加減な気持ちで絵を描き始めているのでしょう。
 骨格から始めて、人物画の基本に今こそ戻るべきかなと思います。

 「私の好きな画家ベスト10」を選べば、必ず上位に入る画家にジョン・シンガー・サージェントがいます。(あえてベスト3に入る…と断言しましょう)
 私はサージェントの天才的ともいえる、自由で的確な筆致が大好きです。

 初期から中期のかけての油彩の肖像画群(似顔絵ではない、人物の本質が垣間見えるような絵の深み!光と影。そしてあの構図!)も、もちろんいいのですが、後期の水彩画における色と光がマジックのように輝いている作品群がまた素晴らしいです。
 単なる物質にすぎない絵の具が自由にキャンバスや紙の上を踊っていて、リアルにモチーフを描き出している様子は、まさに「これぞ天才画家!」って感じです。
 そんな一枚の絵を創り出すには絵画力がとんでもなく必要だということぐらいは、私にもわかります。

  サージェントの絵を眺めていると、「常に真剣にモチーフに向き合うこと」と「地道に技術を磨くこと」を忘れてはいけないなと思います。
 サージェント自身もベラスケスを始め、多くの巨匠たちの名作に刺激されながら自分の絵を追及していったのですからね。

 さあ今日も絵を描こう。
 ちょっとでも上手くなろう。

(サージェントの代表作「マダムX」)

(2008年4月12日) Topに戻る

ロートレック

 今日、NHKの新日曜美術館を見たらロートレックを取り上げていました。
 私は今までロートレックって、てっきり19世紀の世紀末に活躍したように思っていたんですが、実はも少し前に登場していて、ちょうど印象派の登場とかぶるぐらいの時代でした。
 きっとロートレックがよく描いたムーランルージュなどのモダンで退廃的なイメージが世紀末のイメージと重なって、そんな勘違いをしたのだと思います。

 ロートレックが活躍したのは、まだまだサロンの権威が強かった時代。
 あのブグローのようなツルツルの絵が王道だった頃。
 斬新な色づかいと構図。
 モチーフの本質をまっすぐに捉える視線。

 一見、現代のCGアートっぽいとんがり方をしている絵を、ロートレックは、よくもまあ描いたものだと感心しました。(もちろん、さんざん酷評されたみたいですけど…)
 単なる器用な売れっ子イラストレーターではありませんね。

 これまでそうでもなかったのですが、ちょっとロートレックが気になる存在になりました。

(2007年3月2日)Topに戻る

ベルギー王立美術館展を見に行きました

 昨日、以前から行こうと思っていたベルギー王立美術館展を見に行きました。

 出展されている画家は、超有名どころのルーベンスやヴァン・ダイク、ヨルダーンスにブリューゲル(父)など。(ルーベンスを模写したドラクロワもありました)
 まさにフランドル絵画の栄光を物語るような、かなりの豪華版だったのですが、実際に見て感銘を受けたのは、彼ら古典の巨匠たちの作品よりも、むしろ近代の画家たちの作品でした。
 具体的にいうとポール・デルヴォー、ルネ・マグリッド、そしてジェームズ・アンソールなど。

 正直にいうと彼らのことは実際にその作品を見るまでよく知らなかったのですが、一目で気に入ってしまいました。(後で知りましたが、彼らもそれなりに有名な画家たちだったのですね…)
 怪しく作品世界に引き込んでしまう魔力を持つシュールレアリズム。キリコ以外にもこんな感覚を持つ作品を描く画家たちがいたのだということに感激しました。

 思いつきを殴り描きで描いたたようないい加減な絵ではなく、記憶の彼方に誘い込まれるような深い世界。限りなくノスタルジックなデルヴォーの「夜汽車」、精緻でクールなマグリッドの「光の帝国」。
 感激のあまりグッズを買おうかと思いましたが、ショップで売られているポストカードやポスター、複製画には本物の色やタッチが(当然ながら)再現されておらず、あの怪しげな吸引力に欠けていたので買うのはやめました。

 それとアンソールはシュールレアリズムではありませんが、落描きの感覚にも近い自由でグロテスクな絵が印象的でした。でも自画像が一番良かったですけどね…。

 不遜ながら、彼らの絵を見ていると、ルーベンスなどの巨匠たちの絵は、あまりにも古典的で固定観念にしばられている絵のような気がしました。狭い範囲のテーマやモチーフで勝負しているような窮屈さを感じたのです。

 その他の画家では、古典的な明暗の写実的な絵ではありますが、ヤーコプ・スミッツも気に入りました。
 さらにはラファエル前派とのつながりで少しは知っていたクノップフの作品もありましたが、こちらも良かったです。ただもっと女性を描いた絵が見たかったですね。
 それとルイ・ガレの「芸術と自由」。
 強烈ではありませんが、何気なく飾っておきたいような気持ちのいい絵でした。

 まだ今月中は開催しているベルギー王立美術館展。
 思ったよりもいい絵が多かったので、また見に行こうと思います。

(2007年3月2日)Topに戻る


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